今更聞けない『グッバイ、サマー』を解説

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先生にも女の子に間違われるほど繊細な容姿でもあり、画家を目指している主人公ダニエル。彼のクラスに転校してくるのは自分をしっかり持っているテオ。子供でもない、大人でもない14歳という狭間の時期をどうやって乗り越えていくか、一緒に旅をしながら見守れるストーリーです。個性的でものおじしないテオにダニエルが声をかけて、二人はすぐに意気投合し友人同士になります。リサイクル工場で集めた部品を組み合わせ、エンジンも搭載させた車を完成させた二人は夏のバカンスに出発。旅の目的は青春の一ページに違いないものの、二人の思惑がすれ違い、大きなけんかに発展するのです。一度は離れてみたものの二人の個性的な友情は壊れていませんでした。フランスを南下して旅をしてたどり着いた終着点からの帰省。彼らを待ち受けている現実はどんなものなのか、見逃すことはできないでしょう。

画家をめざし自分らしくありたい主人公のダニエルと、ある日彼のクラスに転校してくる個性的で自立した少年テオのひと夏の青春を描いています。子供でもない、大人になりきれない狭間の14歳の少年たち。ある日、ダニエルは個展を開くことになります。少年の小さな才能を取り上げた新聞記事もあったものの、友人はおろか家族さえ見に来ませんでした。そこに現れたのはテオだけ。彼は誰もいない画廊の中にたくさんの人がにぎわっているかのような様子でおどけてみせて、ダニエルの頑張りをたたえてくれます。テオの家に招かれたダニエルは、一緒に食事をして彼の両親の放任感に驚くも、テオの機械への知識にはまり一緒にエンジンの修理をしたり。生活環境もなにもかも違う二人は一緒に過ごすことで友情が明確なものになっていきます。そして、リサイクル工場で集めてきた部品を組み合わせて車を完成させ二人の夏休みの旅は始まります。二人の意見で完成した車に乗って、楽しいバカンスを目指して進んでいく道中、おかしな大人に出会ったり、散髪という名の冒険があったり。繊細な母親を持つ主人公、放任主義で育ってきた友達、互いの個性が爆発しながら作り上げられる二人の旅なのです。そして旅から戻ってきた二人に待ち受けているものは何なのか、大人がみて楽しめるストーリーです。

とにかく女の子にも見える中性的な風貌のダニエルと、個性的で魅力あふれるテオを見ているだけでも楽しめます。フランス映画というだけあって、子供とはいえ子供っぽくないところがまた良しです。繊細な14歳の少年二人が成長していく中、かけあう言葉はとてもストレートで素敵で、大人の心にも素直に響くものです。個性とは何なのか、自分とはどうやって作られていくものなのか、自然な二人の姿から改めて発見したり考えさせられるストーリーです。ダニエルはほとんどの場面でテオの言葉に「確かに」と納得させられながら感化されていくのですが、感化されている自分とも戦っています。彼が女の子に間違われるのを卒業するべく、肩まである長い髪を切りに出かけたときに起こるトラブルには、笑いあり涙ありで最高に二人のかけあいを楽しむことができます。このことで、テオもダニエルの強さを改めて実感したかもしれません。二人の旅の中で、青春のもやもやした悩みが少しずつ解消されていくことを、最後には現実を見つめる必要もあるということを、しっかり実感できる映画です。

テオから見た大人になるとはどういうことかを考える

主人公ダニエルにはたくさんの悩みがあります。画家になりたい自分、個性を発揮したい自分、女の子に間違われたくない自分、など自分をとりまく繊細な悩みに翻弄される少年です。そしてその彼との友情を築くテオは、ストーリーの中で個性あふれる姿、自分を持っている姿、自然体でいる姿をみせてくれます。2人の少年が悩み成長していく映画といえるかどうか、テオの悩みは直接的には出てきません。うじうじしているダニエルに言葉をかけてやることができる、自立した少年という印象を受けるのです。しかし状況は、放任主義のもと育った子供で、兄も遠くに送られ、良い環境にいる立場ではない彼。ダニエルの悩みにこたえることで繊細な気持ちを理解しようとしたり、温かさに触れているのだろうかと思えるほど。ただそれを表に出さない強さ、出せない弱さが繊細な時期を表しているのでしょうか。思わずダニエルを応援してしまうメインストーリーではありますが、対照的なテオの心のうちを、本音で言い合える友人を大事にする温かい心を想像せずにはいられません。最後にはテオにとって重い気持ちがのしかかりますが、あまり姿は出てこず、彼の少年なりの悩みを想像する時間にもなっているように感じました。

涙を流すほど笑って過ごす時間はありましたか?ないと答えた大人たちに観てもらいたい映画です。現実の中で頑張っている大人の心に、熱すぎずハートフルでピュアな気持ちを思い出させてくれる映画だと思います。男女問わず、思春期の思い出の中に共感できる部分があるでしょうし、大人になった今だから聞きたい素敵な言葉もたくさんでてきます。この映画を見た後は、少しすがすがしくも切ない気持ちになるかもしれません。自分をとりまく人間関係をフラットに見つめなおすきっかけにもなって、ほんのり前向きな気持ちが生まれるのではと思います。

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